【ゼノギアス開発秘話】スクウェアの野心と葛藤が生んだ伝説のRPG、その誕生の裏側とは

戦闘画面
フェイとエリィの会話シーン

【ゼノギアス開発秘話】スクウェアの野心と葛藤が生んだ伝説のRPG、その誕生の裏側とは

1998年にプレイステーション向けに発売された名作RPG『ゼノギアス』は、その重厚なストーリー、哲学的テーマ、そして2Dと3Dを融合した独自のビジュアル表現で、多くのファンを魅了してきました。しかし、その誕生には並々ならぬ苦悩と情熱が込められていたことをご存知でしょうか。本記事では、『ゼノギアス』の開発秘話に焦点を当て、企画から発売に至るまでの裏話を徹底解説します。

企画の出発点:ファイナルファンタジーを超える野心

『ゼノギアス』の開発は、当時スクウェア(現スクウェア・エニックス)の若手スタッフによる新たな企画としてスタートしました。プロデューサーの齋藤健吾氏と、ディレクター兼シナリオライターの高橋哲哉氏が中心となり、「ファイナルファンタジー」シリーズに匹敵する、あるいはそれを超える作品を作ろうという意志のもと、プロジェクトが動き出します。

当初の企画は、実は『ファイナルファンタジーVII』として提案されたものの一つでした。ところが、その内容があまりにも宗教的、哲学的であったため、「ファイナルファンタジーにはふさわしくない」という判断が下され、単独タイトルとして開発が進められることになります。

“エピソードV”の謎:構想は全6部作だった

ゲームの冒頭、タイトル画面には「EPISODE V」と表示されます。この演出に驚いたプレイヤーも多いはずです。これは高橋氏が構想していた全6部構成の壮大な物語の中で、『ゼノギアス』が第5話に相当するエピソードであることを示しています。

高橋氏は、古代から未来に至るまでの人類の歴史を、神話や宗教、心理学、哲学の視点から描こうとしていました。とくにユング心理学、フロイト理論、ニーチェ哲学などが物語の根幹に深く関わっており、その複雑さが『ゼノギアス』を唯一無二の作品へと昇華させました。

開発環境の制約と「ディスク2」の真実

『ゼノギアス』最大の話題の一つは、「ディスク2」でのゲーム構成の激変でしょう。ディスク1ではRPGとしての自由な探索や戦闘が展開されていたのに対し、ディスク2ではほぼすべての進行がテキストとキャラのモノローグで語られるという、非常に異質なスタイルとなっています。

この仕様変更の背景には、開発期間と予算の制限が大きく関係していました。当初より壮大な構想があったにもかかわらず、スクウェア内ではリソースが主に『ファイナルファンタジーVIII』や他の大型プロジェクトに集中しており、『ゼノギアス』は限られたスタッフと期間で作られざるを得なかったのです。

ディスク2の構成について高橋氏は後に、「最後まできちんと作れなかったという想いが残っている」と語っています。一方で、その語り部的演出が独自の魅力を生んだと評価するファンも多く、結果的には“未完の大作”として伝説化する要因となりました。

ギアと人間の戦い:独自の戦闘システムとビジュアル

『ゼノギアス』は通常のRPGと異なり、人間による戦闘だけでなく、「ギア」と呼ばれる巨大ロボットを用いたバトルが特徴的でした。このギア戦は単なるメカ好きの趣味ではなく、物語の中で重要な役割を果たしています。

ギアには燃料や攻撃コストといった独自のシステムが存在し、通常戦とは異なる戦術性が求められました。また、2Dドットキャラと3Dポリゴンの背景・ギアが混在するグラフィックは、当時としては非常に先進的なものであり、多くのプレイヤーに新鮮な体験を提供しました。

音楽担当・光田康典が描いた“魂の音”

『ゼノギアス』の音楽を手がけたのは、クロノトリガーやクロノ・クロスでも知られる光田康典氏です。彼が本作のために作り上げたBGMは、ケルト音楽をベースにした幻想的な旋律が多く、物語の世界観と見事に融合していました。

中でも「遠い約束」や「覚醒」などの楽曲は、プレイヤーの感情を深く揺さぶる名曲として現在でも高い評価を受けています。音楽だけで物語の一部を語るような力強さを持っており、光田氏の代表作の一つとされています。

宗教と哲学の狭間で:ゼノギアスが描いた“人間存在”

『ゼノギアス』は、単なる冒険譚ではありません。人間の存在意義、神とは何か、愛と憎しみ、生と死といった深遠なテーマが幾重にも重ねられています。作中に登場する「ゾハル」や「デウス」などの用語には、聖書や神秘主義的な意味合いが込められており、プレイヤーに強烈な印象を残しました。

また、主人公フェイの多重人格や、エリィとの輪廻転生を描いた構造は、ユングの「元型」理論やフロイトの「イド・エゴ・スーパーエゴ」の精神構造にも通じており、高橋氏の深い知見が反映されています。

その後の展開:ゼノシリーズへの進化

『ゼノギアス』はスクウェア社内では商業的成功とは言い難かったのかもしれませんが、ユーザーからは高い評価を受けた高橋哲哉氏は、スクウェアを離れてモノリスソフトを設立。ナムコ(現:バンダイナムコ)とタッグを組み、『ゼノサーガ』シリーズを手がけます。さらに、任天堂の支援のもと『ゼノブレイド』シリーズへと進化し、現在に至るまで“ゼノ”の精神は継承されています。

残念ながら『ゼノギアス』本編の続編が作られることはありませんでしたが、その魂は確かに別作品へと受け継がれており、プレイヤーの心の中に生き続けています。

まとめ:ゼノギアスはなぜ伝説となったのか

『ゼノギアス』は、ただのゲームではなく、ひとつの哲学的な試みであり、芸術作品ともいえる存在です。開発期間や予算という制約の中で、理想を追い求めたスタッフの想いが、現在でも語り継がれる理由でしょう。

ゲームという媒体で人間存在の本質に迫ろうとした『ゼノギアス』。その開発秘話には、創作の苦悩と情熱が詰まっており、今なお多くのファンを魅了してやみません。今一度、その壮大な物語に触れてみるのも良いかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました